逸話の舞台コリーテンボームハウスを訪ねて

オランダのハーレム市には、知らずに歩いていたら、気づかずに通り過ぎてしまいそうな場所にある小さな美術館があります。それが、「コリーテンボームハウス(The Corrie ten Boom Museum)。一見普通の住宅ですが、外観からは想像もつかないような物語の舞台となった場所なのです。その物語とは、以前ここに住んでいたオランダ人のテン・ボーム一家に生まれたコリーさんという一人の女性が、第二次世界大戦の最中に、ナチスから迫害を受けたユダヤ人などの人々を秘密裏に自宅にかくまったという実話です。その家が現在は美術館として公開されているという情報を聞いて、友人と実際に訪ねてみました。

 

小さな家の大きなストーリー

 

ハーレム駅から10分ほど歩くと、街の中心に到着する手前の左手に、この時計店があります。一見、普通の時計店ですが、実はここも逸話に登場する舞台の一つだと、美術館を訪問する人は後ほど知ることになります。

さて、コリーテンボームハウスを見学するためには、時計店の左脇の脇道沿いにあるドアの前に、指定されたツアーの時間より少し前に到着して待つ必要があります。指定時間以外には見学することができません。入場は無料ですが、基本的には見学の最後に自分の好きな額だけ募金をするシステムになっています。

4月から10月の間は10時、11時半、13時半、15時に、11月から3月の間は11時、12時半、14時半に、英語でのツアーが行われます(2017年1月現在の情報)。休館日は日曜日と月曜日、加えてオランダの祝日です。予約の場合は有料ですが、開催の5日以上までならツアーのメールをして参加枠を確保することもできます。

満員の場合は、早く来た人から順番に優先されるそうなので、筆者は予定された時間より10分ほど前に到着しましたが、私たちのほかに4人の観光客が先に待っていました。定刻ちょうどになってドアが開くと、スタッフの女性が笑顔で招き入れてくれました。季節は冬で寒い中待っていただけに、室内の暖かさがいっそうありがたく感じられました。

 

解説つきツアーで物語に触れる

 

オランダの家に典型的な急で狭い階段を上ると、雰囲気のあるインテリアの応接間に私たちは迎え入れられました。椅子をすすめられ、円状に配置された席に着くと、ガイド役の女性も腰を下ろしました。彼女は、ようこそコリーテンボームハウスへ、と挨拶を述べ、この小さなミュージアムの歴史を語りはじめました。分かりやすい英語で穏やかな口調で話してくださったので、思わずお話の世界に引き込まれていくような感覚を覚えました。

1600年代に建てられたこの家は、1階がコリーさんの祖父にあたるウィリアムさんが始めた時計店、階上はその家族が暮らす自宅でした。腕はいいけれど商売はうまくない時計職人だったコリーさんの父カスパーさんがそのあとを継ぐ頃、オランダは戦争の時代を迎えていました。

第二次世界大戦中、ナチスから迫害を受け、ある一人の女性がコリーさんに頼ってこの家を訪れたのが始まりとなって、コリーさんはキリスト教の教えに基づいて、常に5・6人をこの家に匿い始めたそうです。それからというもの、彼女の仲間が支援した活動も含めると、合計約800人の迫害された人々に借宿や食事などを提供したそうです。

感動的なのは、コリーさんの活動は秘密裏に行われていたにもかかわらず、実はこの街の人々の周知の事実だったということです。その上でナチスに知られていなかったからこそ、多くの人が救われたのだそうです。

ですが、ある日とうとう一人の裏切りから、コリーさんは逮捕されることになりますが、その後もコリーさんの活動に共感を覚えて支援する人々のおかげで、その時に隠れていたユダヤ人たちはナチスに捕まることなくシェルターから脱出できたそうです。

コリーさんはキリスト教の教えからこの活動を始めたそうですが、街の人々を巻き込むほどの力を持った一人のオランダ人女性の成長の物語としても、印象的なストーリーです。1988年からこの家は、コリーさんをはじめとするテン・ボームファミリーの歴史に心惹かれて訪れる人を迎えるミュージアムになったのだそうです。

 

隠れ場所を実際に体験

 

一通りのストーリーを聞いた後は、実際のコリーさんの寝室と、その背面に作られた隠れ場所を見学しました。ただでさえ狭い寝室を削って作られた小さなシェルターに、非常時には6人が隠れていたそうです。寝室の戸棚の下部分が、実は隠れ場所の入口になっていました。その扉は内側からしか開かないようになっているので、いつも誰か1人はそこにいる必要があったそうです。また、ナチスの調査員が来た時に1分もかけずに全員が隠れおおせるため、シェルターへ入るための練習を日ごろから行っていたそうです。

実際に、その隠れるスペースに入ってみましたが、その狭さに驚きました。とうとうナチスの警察がやってきたとき、6人ものユダヤ人たちが息をひそめ、何日も水も食料もない状態で耐えていたかと思うと心が痛みます。自分だったら、肉体的な辛さに加えて、見つかるかもしれないという恐怖にも耐えられないかもしれません。

 

一人の女性の印象的な生き方

 

その後、ミュージアムとして改築された別の展示室に向かいました。コリーさんはナチスに逮捕された後、ドイツで辛い労役をさせられましたが、なんとか生き延びて、そのあと世界中を巡って自身の体験を語り継ぐ活動を生涯にわたって続けました。その途中には、コリーさん自身が酷い扱いで労役をさせられていたときに出会ったナチスドイツの高官との出会いもあったそうです。そこで、普通なら殺意に近い怒りを覚えるほどの敵だった人の存在を受け入れ、罪を赦すことを体験として学んだという逸話も、印象的です。

展示室には、私たちの想像を絶するようなつらい体験を乗り越えて、世界を巡って博愛と罪を赦すことというメッセージを伝えてきたコリーさんの記録が、写真などの資料で展示されていました。

その後は、ツアーの最後はお土産を売っている部屋に到着。ここで、希望者は美術館運営を支えるための募金ができます。

予備知識が無くても、ツアー形式で解説してもらい、コリーさんの住んでいた実物の家で、ストーリーを聞いて、心に残る体験をさせてもらいました。興味がある方は、ぜひ足を運んでみてください。

 

(インフォメーション)

 

名称:コリーテンボームハウス(The Corrie ten Boom Museum)

住所:Barteljorisstraat 19,

2011 RA Haarlem

ウェブサイト(英語):https://www.corrietenboom.com/en/home